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 英雄中毒 ― ヒロイックホリック

 昔、ヒーローに憧れた少年がいた。信賞必罰。弱きを助け、強きをくじく。画面の前の英雄に憧れた少年は、自分もこんな英雄になりたいと思うようになった。少年はそれから人助けをするようになった。困っている人がいたら声をかけ、率先して座席を譲ったり、荷物を持ってあげたり。初めは感じていた不安も、困っていた人の「ありがとう」という言葉を聞いて吹き飛んだ。あの、憧れていたヒーローに近付けた気がして、少年は嬉しかった。

 

 昔、ヒーローに憧れていた少年がいた。少年はヒーローになろうと努力をし、立派な青年になった。彼の瞳は、昔彼が憧れていたヒーローと同じ目をしていた。だが、それから少し経って、青年は何かがおかしいと感じるようになった。気が付いたら、困っている人を探している自分がいた。困っている人がいないと不安になった。困っている人がいる限り、彼はヒーローでいることができる。それは裏を返せば、困っている人がいなければ、彼はヒーローでもなんでもない、ちっぽけな一人の人間だった。

 

 昔、ヒーローに憧れていた少年がいた。青年となった彼がヒーローになるためには、困っている人が必要だった。今の彼の瞳は、昔彼が憧れていたヒーローではなく、ヒーローを苦しめていた悪役と同じ輝きを放っていた。誰かの泣く声が聞こえ、ふと気が付くと、目の前に倒れている人がいた。助けなければ。だって自分はヒーローなのだから。だが、駆け寄ろうとした瞬間、背後から不意の一撃を食らい、彼は地面に叩きつけられた。赤黒とちらつく視界の中で、自分の手から鈍器が飛んでいくのが見え、それきり彼の意識は途絶えた。

 

 昔、ヒーローに憧れていた少年がいた。だが、いつから間違ってしまったのだろうか。目が覚めた彼は、自分が犯罪を犯していたこと、今は病院で治療を受けていることを知った。診断名は『英雄中毒』。ここでしっかり治療を受けましょうね、という医者の言葉を聞き、彼は涙を流しながら「助けて、ヒーロー」とポツリ呟いた。

 

 

続かないです。