昔書いてたホラー小説が出てきたw

    闇の中。携帯電話の液晶が、仄暗い車内を照らし出している。浮かび上がる男の顔、その骨張った頬が歪んでいるのは光の加減のせいではないだろう。その証拠に、ハンドルを握る彼の指先は盲目的にその柄を叩き続けていた。
    車内に響く音。乾いたプラスチックを叩き続ける音。空調は耳触りにカタカタと鳴り続け、車内下部のモーターは蠢いていてシートを揺らしている。

「ねぇ、もっと静かにならない?  この子が起きちゃうわ」

 不意に神経質な声が男の耳に届く。男の横、助手席に女が座っていた。男とは正反対に、か細く、今にも溶けて消えてしまいそうな、霜のような女。その不健康そうな白い顔は暗い車内でも恐ろしいほどによく映えている。彼女のか細い腕の中には、赤ん坊があった。その赤ん坊は笑わない。男は腹立たしそうに呟いた。
「起きるわけないだろ?」
「起きるわよ」
    舌打ちが車内に響く。男はそのまま懐から煙草の箱を取りだした。慣れた手つきで煙草を口に運び、使い捨てライターを取りだし、カチと乾いた音を鳴らした時、女が反応した。

「吸わないでよ!! この子が可哀想でしょ!!」

 金切り声と共に、彼女の枯れ枝のような腕が、瞬く間に男から煙草とライターを奪い取った。男は一瞬豆鉄砲を食らった鳩のような目をしたが、我に帰るとすぐに、怒鳴り返した。
「可哀想だと!?    ふざけるのも大概にしろよ!!」
「ふざけてなんかいないわ!!  大体、貴方は私の子どもをなんだと思ってるの!?  こんなに可愛らしいのに、あ、・・・・・・ゴメンねぇ、うるさかったねぇ」
    途端、女の声が甘い猫なで声になった。視線の先には男ではなく、彼女にとって愛すべき対対象の、赤ん坊。
「もぅ、すぐにうるさくするんだから・・・・・・ねむたいのにねぇ、ゴメンねぇ・・・・・・ほら目を閉じて・・・・・・」
    ちらりとも男の方を見ようとしない女。正確には、女は男を見ようとしないのではなく、子供以外を見る目が無くなってしまっていたのだ。男はそれを無言で見つめ、ため息を漏らした。
「可哀想・・・か」
    それを言うなら、一番可哀想なのは彼女だろう。何故なら、彼女の時間は止まっているのだから。

「ねぇ、○○。愛してるわ」

   慈しむように、その赤ん坊へと愛を注ぐ女。例え、その愛を注いでいるのが乾いた容れ物だとしても、そんな事は最早どうだっていいのだ。

「知ってるよ、母さん」

    男はそれだけ呟くと再びアクセルを踏み、闇の中へと消えていった。